当院の専門看護師の紹介
私はこれまで総合病院精神科の急性期病棟,精神科外来,精神科独立型訪問看護ステーションで精神障がいをもつ当事者のケアや生活支援全般に携わってきました。中でも,人生に苦悩する長期入院者や,地域でたくましく生活する当事者たちとの出会いから,精神障がいをもちながらもその人らしい人生を取り戻す「リカバリー」志向の支援について深く考えるようになりました。2011年に大学院に進学し,2013年に当院に就職、同年に精神看護専門看護師の資格を取得しました。2014年からは教育課長を兼任し,教育委員会の運営を通して教育体制を整備し,全スタッフの資質向上に努めています。
国は「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築(当事者が,障がいの有無や程度にかかわらず誰もが安心して自分らしく暮らすことができる地域共生社会の実現)を推進しています。私たち医療従事者も「当事者のリカバリー」を大切にした支援をこれまで以上に進化させる必要があります。当院では2014年より「リカバリー概念」「ストレングスモデル」の考え方を学び,2016年より「ストレングス・マッピングシート」を用いた当事者との対話から夢や希望を引き出し,退院支援や地域生活支援に活かしています。さらに,近年注目されている対話の技法である「オープンダイアローグ」をスタッフとともに学んでいます。
看護部では2017年より5年間の準備期間を経て2022年4月より「オレム・アンダーウッド理論」を導入しました。これは,当事者が自分で自分のことが決められる「自己決定能力」や,自分で自分のことができる「セルフケア能力」を維持または伸ばすための精神看護の方向性です。当事者の自己決定を支えるためには「当事者の夢や希望,強み」といったストレングスに注目する支援者の姿勢,当事者の話をじっくり聞くことから始まる対話の技法(オープンダイアローグなど)が不可欠です。さらに,セルフケアをアセスメントするためには精神状態の査定(Mental Status Examination:MSE)が大切になるため,これらについてスタッフととともに看護実践と学習を積み重ねています。
当事者やご家族の権利を最大限尊重するために,院外から外部委員を入れた倫理委員会の運営し,「ご意見箱」に投函された当事者・ご家族からのご意見を病院運営に反映するために大切にさせていただいています。院内の倫理システムを整備し,スタッフの倫理的感受性を高める倫理研修や,臨床倫理4分割表を用いて多職種で倫理的課題を話し合う倫理カンファレンスを取り入れています。
活動レポート
【院内活動】
- CNS相談室における相談活動
- 教育委員会 副委員長
- 倫理委員会 副委員長
- 医療サービス質改善委員会 副委員長
- 看護倫理委員会 委員長
- オレム・アンダーウッド理論導入プロジェクト リーダー
- 院内研修 講師
【院外活動】
- 山梨県看護協会 研修講師
- 山梨県看護協会東山梨支部 研修講師
- 日本精神科看護協会山梨県支部 研修講師
- 山梨県立大学看護学部 特別講師
- 山梨県内の病院における研修講師
- 山梨県精神看護CNS研究会 代表
- 山梨県精神看護を語り合う会 事務局
【研究業績】
- 横森ひろ美,春日飛鳥,加々美徳仁,佐藤富明(2014):高校生対象の統合失調症出張講座による疾患に対する認識の変化,日本精神科看護学術集会誌,57(1):488-489.
- 渥美一恵,服部国江,竹居由香利,春日飛鳥,長坂暁恵,山田光子(2014):精神科デスカファレンスでの家族の思いの振り返りとその意味~デスカンファレンスに参加した看護師へのインタビューを通して~,平成25年度山梨県立大学研究費助成研究成果報告書.
- 渥美一恵,竹居由香利,長坂暁恵,服部国江,春日飛鳥,山田光子(2014):デスカンファレンスで共有した共有した家族の思いとその意味~デスカンファレンスに参加した看護師へのインタビューを通して~日本精神科看護学術集会誌,57(3),49-53.
- 渥美一恵,服部国江,長坂暁恵,竹居由香利,春日飛鳥,山田光子(2014):デスカンファレンスで共有した家族に関する看護師の思いとその意味~デスカンファレンスに参加した看護師へのインタビューを通して~,日本精神科看護学術集会誌,57(3),54-58.
- 渥美一恵,春日飛鳥,長坂暁恵,竹居由香利,服部国江,山田光子(2014):デスカンファレンスを通して看護師が捉えたターミナルケアの課題~家族についての看護師へのインタビューから~,日本精神科看護学術集会誌,57(3),59-62.
- 春日飛鳥,中谷春香(2017):精神看護専門看護師による精神科病院の組織変革に関する記述的研究,第4回日本CNS看護学会プログラム・抄録集,83.
- 春日飛鳥,清水惠子(2018):デイケアに通所しながら地域で生活する統合失調症患者が生活の見通しを立てる体験,日本精神保健看護学誌,27(1),63-74,
- 春日飛鳥(2022):当事者の自己決定を支えるための対話の意義,精神科看護 増刊号,49(9),27-32.
専門看護師とは
専門看護師(Certified Nurse Specialist:CNS)は1950年代に米国で発祥し,医療の進歩,看護教育の発展・整備といった背景から,日本においても看護実践現場におけるスペシャリストの必要性が認められ,1994年に発足した日本看護協会による認定資格制度です。複雑かつ解決困難な患者様・集団に対し,専門的知識と技術をもって問題解決を図る役割を担います。
受験資格は看護師免許取得後,5年以上の実務経験(うち3年以上の専門分野の実務経験)を有し,大学院専門看護師コースを修了後,専門看護師としての実務経験を経て,認定試験を突破することで認定され,5年更新制です。2022年7月現在、14の専門看護分野があり,全国で2901名,うち精神看護専門看護師は383名が活躍しています。
当院には1名の精神看護専門看護師が,病棟や外来に所属するのではなく独立したポジションとして院内を横断的に活動しています。教育支援室に常駐し,「CNS相談室」を開設して随時スタッフへの個別相談に応じています。