認知症やケアをテーマとした作品や書籍
前回は、統合失調症など精神科の病気を扱ったあるいは登場人物に精神科の病気が描かれているような小説や映画を紹介させていただきました。今回は、アルツハイマー型やレビー小体型、前頭側頭型、脳血管性などの認知症を扱った小説や映画、当事者の方々によって書かれた書籍、一般的な専門書やケアについて書かれた書籍などをいくつかご紹介したいと思います。
私が知っているもので最も古い作品は、1972年に有吉佐和子氏の小説『恍惚の人』です。この作品は翌年には森繁久彌氏、高峰秀子氏をキャストに映画化され、今までに何度かテレビドラマ化もされてしますので、ご存じの方もいらっしゃるのではないかと思います。何よりもすごいのは「認知症」という言葉がない50年前に書かれたものですが、誰にでも訪れる老いについて、介護について考えさせられる作品です。
小説では、耕治人氏の『どんなご縁で』があります。小説の中では認知症を発症された奥さんとの日々が綴られています。この作品のタイトルは、作者がケアをしている際に、妻がつぶやいた「どんなご縁で、あなたにこんなことを」からつけられています。また、同氏の作品に『天井から降る哀しい音』、『そうかもしれない』というものもあります。次に青山光二氏の『吾妹子哀しい』を紹介します。この作品は純愛小説ですが、作者の介護体験や認知症を病む人の寂しさが描かれています。
映画では、『長いお別れ』という作品があります。これは、少しずつ記憶を失っていく父親とその家族との日常が温かく、ユーモラスに描かれている作品です。また、映画のポスターの「だいじょうぶ。記憶は消えても、愛は消えない」という言葉は、とても印象的です。また、絵本でも『とんでいったふうせんは』という作品があります。
最近では当事者の方々によって書かれた書籍も数多くあり、その中で、『認知症になっても人生は終わらない』、『誤作動する脳』という本を紹介します。前者は、認知症当事者の方々のメッセージをまとめた本で、様々な経歴、年齢の方々の思いが綴られています。「俺は青山仁」とだけ書かれた文字にはこころが奪われます。後者は、作者の樋口直美氏が自身のレビー小体型認知症について観察し、その体験を綴っています。
最後に専門家でなくても読みやすく、知識を深めるための書籍やケアについての書籍を紹介して終わります。一冊目は『認知症世界の歩き方』という本です。この本は、当院の認知症認定看護師のAさんが手にしているのを見て、本の表紙の絵の可愛さに目を惹かれました。認知症のある方の世界をまるで旅するかのように学ぶことができ、それぞれの症状や行動の背景にある理由も知ることが出来る本です。二冊目は『ケアってなんだろう』という本です。この本は、精神科医である著者が、常に「ケア」の本質とは何かを読者自身へ問いかけ、そしてまた著者自身も一緒に模索しようとしており、ケアについて改めて考える機会になる一冊ではないかと思います。
今回紹介した作品
【小説】
『恍惚の人』 有吉佐和子著 新潮文庫
『そうかもしれない』 耕治人著 武蔵野書房
『天井から降る哀しい音』 耕治人著 武蔵野書房
『どんなご縁で』 耕治人著 武蔵野書房
『吾妹子哀しい』 青山光二著 新潮文庫
【絵本】
『とんでいったふうせんは』 ジェシー・オリベロス著 絵本塾出版
【映画】
『恍惚の人』
『長いお別れ』 販売元 : TCエンタテインメント
【書籍】
『ケアってなんだろう』 小澤勲著 医学書院
『誤作動する脳』 樋口直美著 医学書院
『認知症世界の歩き方』 筧裕介著 ライツ社
執筆:臨床心理課 清水