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傾聴(耳を傾けること)って何だろう?

私たちが働く精神科医療では、患者さんと接する際の基本的な姿勢として、共感、受容、傾聴という態度が特に大切にされています。今回は、傾聴について考えてみたいと思います。人の話を聴くということは精神科医療にかかわらず、日常生活ではごく当たり前の行為であり、相手のことを理解するためにはとても重要な行為であると思います。

傾聴ということを考えると2つのエピソードが思い出されます。私が学生時代に恩師から言われた「人の話を聞くことは誰にでもできる。専門家でなくても話を上手に聴ける人はいる。例えば、京都のお寺の近くに昔からあるような和菓子屋にいる女将さんの方があなたたち(心理士を目指す学生)よりもはるかに上手です。」という話。私が心理士(師)になって初めて関わりを持ったある女性のクライエントから言われた「先生は、私のことをわかっているようで、わかっていないところがあるよね。」という話。

漢字には、“きく”という意味を持った言葉がいくつかあります。広辞苑で『聞く・聴く』の意味を調べてみると、『①聴覚器に音の感覚を生ずる。声・音が耳にはいる。②人の言葉をうけいれて意義を認識する。聞き知る。③(「訊く」とも書く)尋ねる。問う。④注意して耳にとめる。傾聴する。』などと書かれています。次に、傾聴の意味を調べてみると『耳を傾けてきくこと。熱心にきくこと。』と書かれています。このように傾聴するということはただ単に相手の話が耳に入ってくるというより、相手の話に耳を傾けるというように能動的な働きが必要なようです。また、傾聴は相手に積極的な関心をもち、より深く、丁寧に耳を傾け、自分の訊きたいことを訊くのではなく、相手の思いや伝えたいことを受け止め、相手の立場に立って考え、真摯に“聴く”ということが大切なようです。

1940年代から50年代にかけ、日本にもアメリカのカール・ロジャースが創始した来談者中心療法という考え方が導入され、一時期、カウンセリングマインドという言葉が対人援助職の基本姿勢として教育現場などで盛んに取り上げられました。ロジャースは傾聴に必要な態度として、①自己一致(構えのない自分でいられること、自分の内面に起こる感情を否定したり歪曲したりせず、ありのまま認めていられること)、②無条件の受容(相手の存在に関心をもち、かけがえのない存在として尊重する態度)、③共感的な理解(その人の体験をあたかも自分の体験のように感じたり考えたりすること)、という3つの姿勢を提唱しています。このように傾聴とは相手の言葉に耳を傾けて、相手の気持ちに寄り添うことです。そのためには相手が安心して話せる関係を築くことや安心できる雰囲気を作ることが大切になります。

少し話はそれてしまいますが、相手の気持ちに寄り添うということについて、著名な精神科医のひとりである中井久夫先生には次のような逸話があります。心理検査のひとつにロールシャッハテストというものがあります。中井先生はロールシャッハテストの勉強会の中で、対象となる患者さんの概要を聞いて、その患者さんがどのような反応をするのか想像しながら発表者の話を聴き、自分が想像した通りの反応であれば頷き、自分の想像したものと違う反応であれば、「なるほど。そういう反応をするのか。」とその患者さんになったつもりで考え、相手のことを理解しようとされていたそうです。このように相手のことを理解するためには想像力を働かせながら耳を傾けるということも大切なのかもしれません。また、私自身も心理士(師)として駆け出しの頃、担当しているケースについて恩師に相談したところ恩師から「相手の話を聴いて、その状況をありありと想像することができるかが大切。」というようなことを言われた経験があります。その時、感性を磨くための練習方法として「電車の車窓から見える景色をただ単にきれいだなとか思って眺めるのではなく、10年後、20年後、今眺めている景色がどのように変化するのか想像しながら眺めると感じ方は徐々に変わってくるでしょう。」と言われたことを思い出します。とはいえ、感性を磨くことや相手の気持ちに寄り添って耳を傾けることは意識していても難しいと思います。私自身も相手の話がしっかりと聴けているのか疑問に思う時がよくあります。

傾聴は、話を聴く側が意識していても、話を聴いてもらっている当事者が「自分のことを理解してもらえた」と感じなければ、真の意味での傾聴にはならないのではないでしょうか。

最後に日頃、私が心掛けていることのいくつかを紹介します。

  • 相手の表情や仕草、姿勢にも注意を向ける。
  • 相手の話を遮ったり、否定したりせずに聴く。
  • 相手にアドバイスをしたり、相手を説得するようなことは極力しないようにする。
  • こころに余裕をもって接する。

あとは、話を聴くのが上手な人を観察してその人の真似をしてみるのもよいかもしれません。

 

執筆:臨床心理課 清水

更新:2022/04/26

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